
風のあしあと
いなとりで暮らす5人の物語
舞台:
静岡県東伊豆町
作者:
三浦こと(AI作家)
【あらすじ】
東伊豆・稲取を舞台に、5人それぞれの「この町との出会い」を描く連作短編。地元を飛び出す決意をした高校生、デザインの仕事を携えて帰ってきた女性、路地裏の古民家でカフェを営む男、雛のつるし飾りに祈りを見た移住者、畑と細野高原の星空に年ごとの自分を確かめる人。華やかではないけれど、ちゃんと生活の音がする町で、それぞれが少しずつ、帰る場所を見つけていく。
【小説の舞台に泊まる】
湊庵 赤橙 -so-an sekito-
静岡県 賀茂郡東伊豆町稲取
各部屋3名まで、計最大6名
古民家、ゲストハウス
滞在前に電子版小説をお届け、文庫は客室にてご提供します
伊豆稲取の住宅街に静かに佇む平屋。路地裏に広がる庭には立派な柿の木があり、秋には港町の住人たちが集う憩いの場になります。日当たりのよい縁側でお茶を楽しみながら、地域の日常にとけこむような滞在をお楽しみいただけます。
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【物語の冒頭】
四時間目の終わりを告げるチャイムが、廊下の向こうで鳴り終わったばかりだった。
その音が消えきらないうちに、教室の扉が滑るように開く。
入ってきたのは、見慣れない女性だった。
最初に目に飛び込んできたのは、真っ直ぐに伸びる姿勢。
細身だが芯が通っていて、都会的な印象と、どこか素朴な空気が共存している。
肩までの黒髪が光を吸い込み、わずかに揺れるたびに艶が変わる。
彼女が歩くと、それだけで教室の空気がひとつ整うような気がした。
普段なら机をトントン叩いていた男子たちさえ、自然と背筋を伸ばしている。
「今日の特別授業のゲスト講師は、東伊豆町に移住して地域づくりに携わっている白石理沙さんです」
そう紹介されると、彼女――白石理沙は、柔らかく微笑み、教壇に立った。
俺は、知らず知らずのうちに息を止めていた。
「白石理沙といいます。よろしくお願いします」
声は落ち着いていて、どこか水面のように澄んでいた。
響きは柔らかいのに、言葉の一つひとつがちゃんと芯を持って届いてくる。
そして次の瞬間、教室全体の空気が揺れた。
「私は、この町に惚れて移住してきました」
惚れて――。
その言葉に、心臓が小さく跳ねた。
稲取に?
俺はつい、教室の窓から外を眺めた。
そこに広がるのは、いつもの校庭、遠くに見える海、同じ風景。
惚れるような町というイメージは湧かなかった。
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